自転車事故の判例については、
単なる事故態様・過失割合だけでなく、
必ず個別の判例における下記の項目等確認しておきましょう。
- 認定された各過失要素
- それに対する過失判断
- 事故状況および条件
また、
相手方保険会社・弁護士などから過失割合を提示された場合には、
必ずその根拠を書面で交付するよう求めましょう。
もし、
類似判例の過失割合と事故態様(発生状況図等)
しか示されなかった場合には、
特に注意が必要です。
高校生による自転車事故の高額賠償例
早速、いくつかの高額賠償例を見てみましょう。
「自転車事故でこんなに高額の賠償金を払うことになるんだ。気をつけなくちゃ。」
と、再認識しておいて下さい。
- 通学中、歩行者に衝突し、被害者に脊髄損傷による麻痺の後遺障害が残った。
賠償金額6,008万円 - 帰宅途中、街灯のない道で歩行者に衝突し死亡させた。
賠償金額3,912万円 - 道路右側を走行中、対向進行してきた主婦の自転車と接触して転倒させ、死亡させた。
賠償金額2,650万円 - 帰宅途中、無灯火で歩行者に気付かず衝突、死亡させた。
賠償金額1,169万円 - 帰宅途中、植木の剪定をしていた作業者の脚立に接触、転倒させ、死亡させた。
賠償金額685万円
それでは、
賠償額だけでなく、少し中身も見ていきましょう。
自転車対歩行者の事故の高額賠償裁判例
自転車事故高額賠償裁判例の中身を知ることで、
普段から「何に気をつければよいのか」など、
しっかりと考えるようにしておきましょう。
9,520万円 : 平成25年7月4日神戸地裁判決
小学五年生の子供がマウンテンバイクで坂道を時速20~30キロで爆走。
散歩中の女性女性(67歳)に正面衝突して跳ね飛ばした事例。
女性は頭部骨折等で病院に搬送されるも意識不明。
家族と保険会社が、
子供の母親を相手に損害賠償請求訴訟を提起。
裁判所が問題視したことは、
坂道を高速で下っていたことと、その状態での前方不注視。
「自転車運転に関する十分な指導や注意をしていなかった」
として、
母親の「指導や注意をしていた」という主張を退け、
親の監督義務責任を認めた。
「子供のやることには親が責任を持て。」
ということですが、
注意をしても聞かない自分勝手な子供が増加していることも事実です。
また、
実際にはまともな注意をしていないにもかかわらず、
注意をしていると言い張る親もいるのが現実です。
注意をするどころか、
平気で子供と自転車で歩道を横列で走行するような輩もいますので、
そのような輩には近づかないように注意しておきましょう。
それでは、次の例。
約3,000万円 : 平成19年7月10日大阪地裁判決
男子中学生(15歳)が無灯火で、
幅2.5mの歩道上を車道寄りではなく、
車道から1.8mの建物側を走行中、
交差点の信号機が青のうちに早く渡ろうと速度を上げたところ、
男性会社員(62才)に正面衝突して転倒させ死亡させた事例。
男性会社員の過失は、当然0。
男子中学生の無灯火だったことの言い訳が、
「街灯等で現場はやや明るい状態だったから。」
しかし、
男子中学生の視力は0.2程度(裸眼)。
しかも、
普段は眼鏡をかけていたのに、
事故当時はかけていませんでした。
親権者の監督責任も問われましたが、
男子中学生が、
普段から危険な運転をしていた等の事故歴がなく、
親の責任は認められませんでした。
被害者が保険に加入していたため、
保険金3,000万円を支払った損保会社が、
男子中学生に求償して訴訟を提起したものです。
無灯火に目が行きがちですが、
通行区分もしっかり判断材料になっていますので、
重要であることが分かります。
「被害者が自転車保険入っていてよかった。」
などと、安心していてはいけないということです。
過失割合によっては保険会社から求償されますから。
約374万円 : 平成18年7月10日東京地裁判決
狭い私道からバスに乗るために、
バス停のある広い道路の歩道に小走りで進出した際、
自転車を運転する女性と衝突して右大腿骨頸部を骨折した事例。
「小走りで進出」という表現が微妙ですが、
とりあえず
「飛び出したとまでは言えない状況である」
ということだと思っておくとよいでしょう。
このような場合、
過失割合に影響することとなるので、
歩行者としては明確に事実を主張すべきこととなります。
約5,000万円 : 平成17年11月25日横浜地裁判決
54歳の看護師女性が市道を歩行中、
無灯火でさらに携帯電話を操作していた16歳女子高生に追突され、
被害者の手足に痺れが残って歩行困難となり、
職も失った事例。
裁判所は、
加害者女性(判決時19歳)に支払いを命じた。
なお、
加害者の父親の責任は否定されました。
未成年者の事故において、
親の指導監督責任を問えるか否かについては、
概ね小学生未満が目安になります。
無灯火+ながら運転のコンボですから、
相当心証が悪くなります。
約808万円 : 平成17年3月22日大阪地裁判決
53歳女性が同僚に声を掛けられ、
ビル敷地の植込みの間から歩道上に出た際、
業務中の男性の自転車と衝突して転倒して腰椎を骨折、
後遺障害併合10級及び腰部脊柱変形の障害を残した事例。
被害者の女性は、
植込みの間から出る際に左右の安全確認をしなかったものとされましたが、
特に走ることもなく、
公開空地という歩道上で衝突したため、
歩行者に過失相殺を認めず、
自転車が100%悪いと判断されました。
なお、
ここで問題となっている植込みは高さが低く、
「自転車側に前方不注視がなければ、歩行者に気付かないといったことはない。」
とされたための過失判断です。
この判例をもう少しだけ突っ込んで見てみましょう。
この判例では、
歩行者に多少の左右安全確認義務違反があっても、
通常の歩行をしていたのであれば過失なしとすべき、
と判断されました。
つまり、
自転車側が過失割合に関して、
「歩行者が通常の歩行でなかったならば」
それを問題にすることができることになります。
また、
自転車側から歩行者の確認がしづらいとは言えない状況であった、
こともポイントです。
すなわち、
植込みの高さによっては過失判断が変わることになる
と言える訳です。
この点、
もし歩行者が自転車から視認しづらい状況であった場合には、
歩行者もしっかりと左右を確認すべきことや、
自転車等に自らの存在を気付かせるための行動等が求められることとなります。
こういった状況において、
歩行者に10~20%の過失を認定した判例も結構ありますので、
歩行者も必要な確認をしっかり行うよう心がけましょう。
実際に、
歩行者が自転車側から確認しづらい場所から
小走りで進出した場合に、
20%の過失が認められた東京地裁平成18年判決などもあります。
つまり、
通常の歩行ではなかった場合、
という訳です。
約6,700万円 : 平成15年9月30日東京地裁判決
男性が自転車でペットボトル片手に坂道を高速度で下り交差点に進入、
横断歩道を横断中の買い物帰りの主婦(38才)に衝突して転倒させた事例。
主婦は三日後に脳挫傷により死亡した。
この訴訟において、
加害者側弁護士が
「歩行者を避けようとしたスペースに主婦が引き返したことから歩行者にも過失がある。」
と主張しました。
裁判所は
「横断歩道を歩行中の歩行者は絶対的に近い保護がされるべき」
とし、
「主婦が両手に買い物袋を持っていて
咄嗟に衝突を回避しづらい事情があったとしても、
過失相殺すべき要素はなく歩行者に落ち度はない。」
として、
加害者の過失を100%と認定しました。
弁護士が絡むと、
稀にすごい主張が出てくるので注意が必要です。
まだまだありますが、割愛します。
ここでは、
自転車だからと軽く考えないようにすることを
肝に銘じておいて下さい。
自転車事故の損害賠償額が高額なものとなる以上、
10%の過失の加算・減算で
大変な負担の増減が生じることが分かるでしょう。
自転車事故の適正な過失割合の算定は、
損害賠償において重要なポイントとなっています。
あなたが望んでいなくても、
相手の対応によっては裁判も必要となるかもしれません。
そのようなリスクがある以上、最悪の場合を想定し、
自転車事故の損害賠償請求訴訟・裁判で主張・立証すべき要件事実や、
具体的内容・方法等についても確認しておくとよいでしょう。
これを知っているといないとでは、
その対応等に大きな差が出ることになるので注意が必要です。